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2013.05.01 Wednesday

機械との競争

結論とても面白かった。そんなに分量の多い本ではないしさくっと読めます。
レビュー読んでると思ったより装丁・デザインの評判が悪いんですけど、僕は逆にこうでもなければ紙の本で買わないなと思った。値段が高い、というのは同意します。

基本的に非常に面白く読めたのだが最初に(中身とは関係ない)残念なところを述べておくと原題の「Race Against The Machine」が邦題「機械との競争」になってしまっているところかなあ。せっかくRage Against The Machineにかけてあるので、なんか工夫できなかったかなと思いますけどしょうがないかな。

ということで、以下本題。

 中身としては「コンピュータができることがどんどん広がっている」ということに楽観的か悲観的かでものすごく評価が別れる本なんだなというのが、本を読んでなおかつレビューも読んだあとで持った感想。僕個人としては現状完全に楽観的なので、うんうんそらそうだよ。って思いながら読んだわけですが、そう思えない人もたくさんいて、現代版のラッダイト運動みたいなこともありえなくはないのかなと。いずれにしてもコンピュータが進化することは不可逆な変化なので、対応する以外ないと思うんですよね。

将棋の人間対コンピュータの対決であった電王戦とそれに対する反応等を見ていてもコンピュータに置き換えられることの生理的な恐怖感とか嫌悪感があるのかどうかっていうところで大きく見方が別れるんだなと思いましたが、将棋はルールもゴールもはっきりしているゲームであって、ただチェスよりも遥かに自由度と複雑性が高いのでこれまで人間が勝ってきていた、ということでしかないんですが、世の中的には「人間が負けた」という情緒的な反応も多かったりする。670台もクラスタリングして2.8億手も計算できるコンピュータと対当に勝負できるなんて恐ろしい人たちだなと思ったぐらいです。

 本当に人間がコンピュータに置き換えられるに至るには、攻殻機動隊でいうところのゴーストが宿るレベルまでいかなければ、いくらコンピュータの計算速度が速くなってもできることとできないことの深い溝はあると思ってるんですけどね。そしてまあその溝ももしかしたら僕の生きている間になんとかなってしまうのかもしれない。

特に面白いなと思ったのは、本書の核となる考え方で「人間の或は社会制度の進化がコンピュータのそれに比べて遅すぎて脱落者(失業者)が増えてしまうのだ」という論調。つまりは「人はコンピュータに仕事を奪われます。おわり」という話ではないということ。ここは悲観的に読むと誤読するポイントだと思う。
人間はコンピュータに負けますという主張をしているわけではなくて、コンピュータの進化が早すぎて「今の」人間社会が追いついていないんだよ、というのが本書の本筋。これはちょっと新しいというか、そんなに主流ではない見方で非常に面白く、かつ納得度が高いなと思いました。人間よ、もっと早く変われと。
例えば著作権とかそうですよね。完全にコピーすることが前提のコンピュータネットワーク上での情報のやりとりに、コピーライト(コピーする権利)っていうのは分が悪いというか、前提が違ってるのでパラダイムシフトさせるしかない。しかしこの例をあげただけでも、それぞれのコンピュータやネットワークの進化に対して、人間や社会制度を進化させることが如何に困難かということが実感できる話でもあり、それぞれの対応策が現実的に思えるのかどうかという問題は個別にそして山のように存在するのも事実ではあります。

もうひとつのポイントはこれまで「コンピュータにはできない」と思われていたことも、かなりの分野が今後カバーされていくだろうという予想。具体的には自動車の自動運転をあげていた。その他「ムーアの法則」的な話で、一定時間毎に倍々に処理能力が上がっていくことで大量のデータを処理できるようになることを、甘く見てはいけない、というような話。世間的には将棋もこっちにあったんだな、というのは電王戦の反応を見るまで実感が無かった。
ムーアの法則ともう一つあげられていた「チェス盤の法則」はドラえもんの「バイバイン」と同じ話で、2倍かける2倍かける…としていくと思ったよりも速く天文学的な数字になってしまうという、指数関数的な感覚。この2つをもって、コンピュータの進化スピードが如何に速いかを例示している。

そういった現状認識を受けたあとの第4章「では、どうすればいいか」で解説されていることは、テクノロジーにより開かれる市場に上限はなく、それぞれのマーケットサイズは小さくともマイクロマーケットのマイクロエキスパートが数千万存在することも可能だろうという話。少なくともアトムの世界、物理の世界のような上限はないのであって、何がそのマーケットサイズの上限になるかというと人の数と時間ぐらいのものだろうと思う。
そして具体的な提言として教育、起業家育成、投資促進、法規制・税制の変更(緩和)と19の項目をあげている。アメリカを対象とした内容だが、多くはそのまま日本にも当てはめて考えられると思う。というか最後の解説にもある通り、日本に比べてアメリカではよほど対応できているのではないかと思う事柄が並んでいるが、実情はそうでもないということだろうか。


最後に本書では「デジタル情報の経済学とは、一言で言えば希少性の経済学ではなく、ゆたかさの経済学である。」という。これだけでは抽象的でよくわからないかもしれないが、コピー可能な財、コピーすることで共有することが容易に可能な財、とその基盤となるインターネットに大きな可能性を感じているからこその表現だと思う。本書では未来を常に楽観的にとらえているし、そこに共感できたからこそ本書が面白く読めたのだろう。

一言で書くと「機械(コンピュータ)は人間の仕事を奪っているが、それは本質的に人間が機械に置き換えられるからではなく、人間の側の主に教育や制度設計といった部分がボトルネックとなって対応速度が遅いからだ。」というのが本書の主張で、納得度は高かった。やれることは沢山ある。

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